自分だからこそできることは意外にある
- 桐田
- 2024年11月12日
- 読了時間: 4分
更新日:4月3日

「帰納法的キャリア形成」のススメ
多くの企業で上司と部下のキャリア面談が行われるようになって久しいですが、その席で上司が言うお決まりの台詞は、「この先、どのようになりたい?」ではないでしょうか。これは、キャリアの目標から逆算的に「必要な知識や経験をいかに補充するのか」を考えるという正攻法にもとづいた質問なので決して間違いではありません。ただ、納得感の高いゴールを見つけることは意外と難しいと感じている方は多いのではないでしょうか。
先日、医薬情報誌『ミクス』に、東京医科大学と東京藝術大学を卒業された初期研修医の方が紹介されていました。この方は今、「疾患啓発に寄与するアート作品を造りたい」と考えておられるそうですが、二つの大学をめざす時点でそのような未来像を具体的にイメージされておられたでしょうか。答えは「No」です。インタビューを拝見する限り、紆余曲折を経ながらも自分の道を歩んできた過程で培ってこられた二つの専門性が結果的に「希少疾患啓発のためのアート」という形にたどりついたと考えられます。これを「結果論」と切り捨てるのは簡単かもしれませんが、むしろ、帰納法的なプロセスで自分にしか生み出せない価値を見つけ出されたことは称賛に価すると思います。
実は、この帰納法的プロセスは、心理学者のジョン・D・クランボルツによって提唱された「キャリアの偶発性理論」に通じるものがあります。「無理やり目標を設定するのではなく、目の前に訪れた想定外のチャンスを活かして未来を切り拓く」という考え方がこの理論の柱ですが、目の前にある現実から解を導き出すという意味では帰納法的と言えます。成り行き任せな一面があるとも言えますが、変化が激しく先を見通しにくいVUCAの時代においてはとても示唆に富んだ考え方ではないでしょうか。
キャリアとは正解があるものではなく、 「自分だけが歩んでいく道のり」
この帰納法的なアプローチでうまくキャリアを築き上げている人たちには共通点があります。それは、「自分にしかできないこと」を強く意識し、それを磨き上げていることです。ゴールから逆算するアプローチでキャリアを考える場合は先人のスキルセットを真似るという手段が有効ですが、帰納法的アプローチでは自分の得意なことを理解し、それを研ぎ澄ますことが重要になります。このように言うと難しく聞こえるかもしれませんが、今までチャレンジしてきたことや経験してきたことを複数掛け合わせてみると、他の人とは違った価値を生み出すスキームは案外簡単に見つかるものなのです。
たとえば私の場合は、「新卒採用」×「新人研修」のスキルを掛け合わせて、『トレーニングのエッセンスを取り入れた採用活動』というスキームを考えてみたことが転職や起業というチャレンジにつながりました。とてもシンプルですが、ポイントは、自分が過去にやってきた新人研修の「型(どうやって成長に導くかという道筋)」の特徴を自分自身で理解することでした。具体的に言うと、「課題を解決するための解説をメインとする」一般的な研修のフレームに対し、「受講者に敢えて失敗を経験してもらってからその解決策を一緒に考える」という自身の研修の型の特徴を理解したうえで、それを採用活動に応用したということになります。
これくらいのレベルで皆さん自身の経験を振り返ったり強みを意識していくと、「自分自身の技を活かす方向性」は必ず見つかるはずです。そのうえで、自身の得意技の活かし方をイメージし、そのイメージを具現化するために磨くべきポイントや到達すべきレベルを明確にし、そこに向けた研鑽を積んでいけば帰納法的キャリア形成は成功しやすくなります。言い換えると、この精度向上のプロセスは、自分自身がナニモノでどのような価値を提供できるのかを考えることになります。
めざしている何かのポジションに到達するキャリア形成も悪くないですが、常識や慣例に縛られず自分の強みを突き詰めながら新しい価値を生み出すこともまた立派な自己実現ではないでしょうか。
今回のコラムは以上ですが、この文章がが皆さんのキャリア開発のヒントになれば幸いですし、そのためのお手伝いはいつでもしたいと考えています。
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